毛利清二の世界:映画とテレビドラマを彩る刺青展
プロジェクト「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」より助成を受け、2024年5月1日(水)より7月28日(日)まで、京都の私設ミュージアム「おもちゃ映画ミュージアム」で企画展「毛利清二の世界:映画とテレビドラマを彩る刺青展」(略称:「毛利清二の世界展」)を開催した。週5日間開館(月火休館)、10時30分から5時までという開館時間、入場料1000円にもかかわらず、有料の来場者は753名、来場者総数は計800名(無料の入場となるミュージアム会員を含む)となった。
企画展は会場が狭隘なため、2期にわけて計200点以上の展示物を提示した。前期60年代から70年代(5月1日~6月19日)は、「昭和残侠伝」シリーズ、「博奕打ち 一匹龍」、「極道」シリーズなど、後期80年代以降(6月19日~7月28日)は、「鬼龍院花子の生涯」、「姐御」、「極道の妻たち」、他社作品「雪華葬刺し」などの刺青下絵、ポスター、スチール、記録映像2編(1971年にNETで「東映ニュース」枠で放送された「東映を支える人々 毛利清二」、「俳優に刺青を描くとは」(2024年3月10日のプレ・イベントの抜粋)の計20分ほど)等で構成した。
東映太秦映画村・映画図書室の学芸員である原田麻衣氏がキュレーションした展示により、東映を中心に40年以上活躍してきた刺青絵師・毛利清二氏(1930年~、94歳)の仕事の全容をはじめて紹介することができた。
小規模にも関わらず、本展は各メディアからの注目を集めた。プレ・イベントを3回催したが、特に初回の3月10日に京都大学にて開催したプレ・イベント「俳優に刺青を描くとは」には、80名を超える来場者を得た。さらに、俳優の高橋英樹氏のコメント入りプレスリリースが4月27日に東映より公式に配信され、スポーツ新聞を中心に企画展が報道された。ほかにも、『映画秘宝』、『サンデー毎日』、『週刊新潮』、『読売新聞』、『朝日新聞』、『京都新聞』、Web系メディアでは「楽活」、「Roadsiders’ weekly」(写真家・編集者の都築響一氏が運営するメルマガ)、地元テレビ局KBSのニュースなどのメディアが報じた。来場者やマスコミからの反応も好意的なものであった。毛利氏と親交のあった高島礼子氏や品川隆二氏、片山由美子氏、峰蘭太郎氏などの俳優が会場に訪れ、華やかさを添えてくれた。
「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」という視点からすると、本展示により本プロジェクトの狙いを達した点が多いのではないかと考える。報道が続いたのは、東映株式会社広報室(多田容子室長)や京都撮影所制作部の小柳憲子プロデューサーの協力を得られたこともあった。企画展の開催が、イレズミのある人々が主人公となる映画を多くの人々が鑑賞していた時代の記憶を喚起したことが挙げられる。
今回の展示では、日本のイレズミ文化が非常に幅広いものであったことを示せた展示であったと考える。「任侠映画の刺青が職人の手により描かれたもの」で、描く過程についても映像で確認できるようにした。刺青絵師が日本の映像文化を支えてきたことを、映画の観客たちが刺青のある人物に憧れた時代があったことを展示により示せた。展示という開催形態の特徴は、来場者も可視化されることである。来場者の約半数にイレズミ・タトゥーがあり、毛利さんも「刺青のある人がようけ来ましたな」と驚く状態であった。毛利さんの認識自体も、「刺青(特に和彫り)があるのは本職(=やくざ)」というものであったが、ミュージアム外壁に提示したポスターから、ふらりと訪れたインバウンドの人々や刺青のある中高年の人々と会話を交わすことで認識が変化していった。
会期中には、イベントを数回おこなったが、通常接点がない任侠映画や時代劇ファンとイレズミ・タトゥーファンが肩を並べて、毛利清二氏の話に熱心に聞きいっていた。
また、2025年にフランスのカルカソンヌ美術館で開催される「古写真で見る日本のイレズミ展」に、毛利清二氏の刺青下絵を展示する話が、フランス極東学院のクリストフ・マルケ教授の仲介で進みつつある。
以上、本展示は社会的分断の超克に向け、国内外の人々の身体の多様性をイメージと現実を共に示し、国際交流の場としても機能したと考える。
参考文献
山本芳美2016『イレズミと日本人』平凡社
2020「日本のイレズミの歴史と現在 -「規制の時代」をふりかえる」
『イレズミと法』尚学社
概要
会場:おもちゃ映画ミュージアム(〒604-8805 京都府京都市中京区壬生馬場町29−1)
会期:2024年5月1日(水)~7月28日(日)
のべ来場者数:800名
協力一覧(順不同):東映株式会社、東映太秦映画村・映画図書室、京都大学映画・メディア合同研究室「京都大学映画コロキアム」、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所基幹研究人類学班、都留文科大学、化粧文化研究者ネットワーク、タトゥー文化研究会、青土社。