JSPS学術知共創プログラム(2023-2028年度)

身体性を通じた社会的分断の
超克と多様性の実現

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社会・文化的多様性の中で他者と共に生きる技法に関する学術集会

(企画・共催:JSPS受託研究課題「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」・AA研コタキナバル・リエゾンオフィス(KKLO)枠共共課題「東南アジアにおけるイスラーム主義と社会・文化要因の相互作用に関する学際的研究(2)-ミクロとマクロの視点から」・AA研基幹研究人類学「社会性の人類学的探究:トランスカルチャー状況と寛容/不寛容の機序」)

 

概要:本学術集会では、日本とインドネシア双方の研究者が、多様な他者(東南アジアにおける宗教的・民族的マイノリティや各地の障害者などを含む)との共生をめぐる課題について議論を実施した。インドネシア、日本、その他の地域における社会的・文化的多様性の中での各種のマジョリティとマイノリティの関係(インドネシアにおけるムスリムと非ムスリム関係等を含む)について、人類学的・学際的な視点からの報告と検討を実施した。さらに、そのプロセスにおける身体的実践や身体化、例えば芸能・パフォーミング・アーツなどの役割についても探究を行った。

 

日時:2024年8月26日 27日

会場:インドネシア、バリ島 インドネシア国立研究革新庁(BRIN)デンパサールオフィス

 

プログラム

8月26日

14:00-14:05 開会挨拶 床呂郁哉 (東京外国語大学AA研)

14:05-14:35 ナジブ・ブルハニ(BRIN)、プラボウォ・セチャブディ(BRIN) 「インドネシアにおける宗教の多様性:国家的・地域的構成」

14:35-15:05 ラニー・ラスタニ(BRIN) 「敬虔さとファンタジーの出会い:インドネシアにおけるヒジャブ・コスプレの台頭」

15:20-15:50 増野 亜子(東京藝術大学)「異なる兄弟: イスラム系バリ人の舞台芸術における宗教的他者との出会い」

15:50〜16:20 伊藤亜紗(東京工業大学) 「障害について考えるのではなく、障害とともに考える」

16:20-17:30 ディスカッション

コメンテーター:富沢壽勇(静岡県立大学)、山口真美(中央大学)

17:30-17:35 閉会挨拶

(使用言語:英語)

 

報告1:Religious Diversity in Indonesia: National and Regional Composition

報告者:Ahmad Najib Burhani M.N. Prabowo Setyabudi(BRIN Indonesia)

 

本報告では、2000年、2010年、2022年の3回にわたるBPS国勢調査のデータに基づき、インドネシアにおける宗教と信仰の構成を全国的、地域的に比較した。インドネシアでは現在も、宗教を公式に6つの宗教、すなわちイスラーム、キリスト教、カトリック、ヒンドゥー教、仏教、儒教に分類している。2000年から2022年までの地域別の宗教別人口分布は、宗教の多様性の特徴を示している。宗教という点では、どの地域も一様ではない。一つの宗教が多数派である一方で、いくつかの少数派宗教は比較的多様であり、バリ島のように非イスラム教徒が多数派を占める地域であっても、時にはかなりの数が存在する。正式にはPenghayat Kepercayaanと呼ばれる様々な地元の信仰や土着宗教に関しては、アイデンティティの点では多様ではあるが、割合としてはまだ非常に少ない。しかし、土着宗教の信者は、バハイやシークなど「その他の宗教」に分類される他の主要宗教の信者よりもまだ多い。多様性の傾向は、インドネシアにおけるさまざまな民族への宗教の分布からも明らかである。

 

報告2:Modesty Meets Fantasy: The Rise of Hijab Cosplay in Indonesia

報告者:Ranny Rastati Researcher (BRIN Indonesia)

 

本報告では、インドネシアにおけるヒジャブ・コスプレの出現について論じる。ヒジャブ・コスプレは、コスプレというイマジネーション豊かな世界と、女性のための慎み深い服装というイスラーム的な価値観をユニークに結びつけ、女性が宗教的・文化的価値観を守りながら自己表現に取り組むことを可能にする。綿密なインタビューや参加者観察を含む広範なエスノグラフィック調査を通して、本研究は、ヒジャブ・コスプレヤーがキャラクターのコスチュームとヒジャブを創造的に組み合わせ、それをパフォーマティブな実践に変えていることを発見した。これらの発見は、ヒジャブ・コスプレが、ステレオタイプに挑戦し、控えめなファッションを再定義しながら、アイデンティティを交渉するメディアとして機能していることを浮き彫りにする。ヒジャブ・コスプレイヤーは、コスチュームにヒジャブを取り入れることで女性のエンパワーメントを示し、グローバルなサブカルチャーの中で自分たちの存在感を示している。この研究は、現代インドネシア社会における宗教、文化、アイデンティティ、コスチューム実践の関係の理解を深めるものである。

 

報告3:Different brothers: Encountering religious others in Muslim-Balinese performing arts

報告者:増野亜子(AA研共同研究員)

 

本報告では、島の宗教的少数派であるムスリム・バリニーズが、島の多数派であるヒンドゥー教徒と、信仰を超えた兄弟愛(nyama braya)として知られる社会的関係を築き、維持してきた芸能について論じる。ムスリムによるバリ芸能は、特にプリ(宮廷)やグリヤ(最高位の司祭)など、近隣のムスリム・コミュニティとヒンズー教徒との間のニヤマ・ブラヤや文化的交流を反映し、促進してきた。ムスリムの音楽家や舞踊家は、例えばヒンドゥー教の儀式や行事に招かれ、敬意を表して演奏する。こうしたパフォーマンスでは、ヒンドゥー教徒とは異なる音、衣装、体の動きがムスリムの文化的アイデンティティを表し、ヒンドゥー教徒が支配する参加者の中でムスリムの存在感を高めることができる。さらに重要なことは、これらのパフォーマンスによって、参加者が一体化した包括的なコミュニティの肖像を創造し、想像することができるということである。パフォーミング・アーツの多感覚的な体験は参加者の身体に影響を与え、慣習的な文化的境界線を越えて、互いに関わり合い、適応し、協力し合うための一歩を踏み出させる。パフォーミング・アーツが社会文化的な境界を超えることを促進する方法について、いくつかの異なるケーススタディを検証しながら考えてみたい。

 

報告4:Appreciation of Disability : Development of Disability Aesthetics

報告者:伊藤亜紗(東京工業大学)

 

障害者の社会参加を促進する法律が制定され、啓発活動が始まって30年以上が経つが、障害者に対する差別はいまだ解消されていない。その重要な理由のひとつは、既存のアプローチの多くが知性に訴えることに集中し、障害者の身体に対する社会的感性を再構築しようとする実践が欠けていることにある。本発表では、トビン・シーバースの同名の著書から生まれた「障害者美学」の展開に焦点を当て、調和、完全性、健康といった伝統的な美の基準に疑問を投げかけ、様々な身体の美的価値を探求する試みを紹介する。太っていること、不格好であること、障害があることの価値を探求し、障害を世界に対する批判的な視点としてとらえた障害者による様々な表現も紹介する。

 

8月27日

11:00-12:00 昼食:セナン・ハティ財団(NPO)見学

12:30-14:00 沐浴と寺院見学

16:00-18:00 ダンスショー「ルワ・ビネダ」/ワークショップ