JSPS学術知共創プログラム(2023-2028年度)

身体性を通じた社会的分断の
超克と多様性の実現

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多様性と包括性をめぐる身体的対話―ひらく、つながる、うみだす

 今回の企画は、身体性の次元から多様性や包摂性を探究することを目的に開催されました。ここでいう「身体的対話」とは、環境も含めた身体のミクロレベルな相互作用を指します。この視点に基づき、映画上映、講演、パネルディスカッションが行われました。

  冒頭の趣旨説明の後、ドキュメンタリー映画『旅する身体~ダンスカンパニーMi-Mi-Bi~』(渡辺匠・志子田勇監督、2024年)が上映されました。本作品では、Mi-Mi-Biの7人のメンバーが日々の創作活動から舞台表現に至るまでのプロセスが丁寧に描かれています。異なる身体性と身体感覚をもつメンバーが、いかにして「未だ見たことのない美しさ(Mi-Mi-Bi)」を体現し、他者と共に舞台上に存在し得るのか。言葉と身体表現による対話が幾度も重ねられ、それが表現として織り込まれていく様子が、深く印象に残りました。

 続いて、Mi-Mi-Biのダンサーであり演出を手がける森田かずよ氏による講演が行われました。森田氏は、これまでの活動の軌跡を紹介しながら、Mi-Mi-Biの創作現場における思索と実践を紐解かれました。映画撮影当時と現在とでは、メンバー構成も変化しており、「個でありながらもバランスを保つ」ことの難しさや、「“ケア”でありながら“ケア”ではない」創作現場のあり方が語られました。これらの実践からは、多様性と包括性の可能性とともに、そこに内在する課題が浮かび上がり、「美しさとは何か」「障害とは何か」といった根源的な問いを改めて考える機会が提供されました。

 伊藤亜紗氏による講演では、主に、台湾の台北駅のメインホールに集う人々、特にインドネシアからの移民労働者の身体的な振る舞いに焦点が当てられました。グローバルな労働移動の問題と、ローカルなケアの技法という二つの位相から、多様性と包摂性が身体を通していかに実現されているのかが丁寧に論じられました。とりわけ、移民労働者たちが、共に床に座る「ノンクロン(Nongkrong)」という実践を通して、ケアする側とされる側の立場の逆転が見出されることや、身体性が互いに浸蝕し合う場が生まれていることが紹介されました。そして、そのような身体的対話の鍵となるのが「居心地の良さ(comfortable)」であることが示唆されました。

 後半のパネルディスカッションでは、森田氏と伊藤氏が登壇し、Mi-Mi-Biの実践において追求される「美しさ」とは何か、そして表現者と鑑賞者の双方にとって「美しく感じる」とはどのようなことことか、という問いをめぐって議論が交わされました。また、ダンスカンパニーの運営におけるケアの担い手の問題と、移民労働者のケア実践の問題は、それぞれ異なる文脈に位置づけられながらも、現代社会における「ケア」をめぐる構造的な課題を共有していることが浮き彫りになりました。

 最後の質疑応答の時間では、参加者から多くの質問が寄せられ、登壇者との間で活発な意見交換が行われました。非言語的な身体的対話を模索する方法や、Mi-Mi-Biの舞台表現に対する観客の反応など、話題は多岐にわたり、「身体的対話」という視点から多様性と包摂性を考える本企画への関心の高さが伺えました。

 概要

 現代社会において「多様性(ダイバーシティ)」や「包摂性(インクルージョン)」が求められる中、言葉だけでは表現しきれない他者との関係性や理解のあり方が問われています。本イベントでは、「身体的対話」 という視点から、多様性と包括性を探究し、実践的なアプローチを模索します。
 私たちは身体的経験を通して、どのように自分自身を知り、他者と出会い、社会をつくりあげているのでしょうか。そこには、どのような身体的対話が繰り広げられているのでしょうか。身体を通じた他者との出会いには、互いの境界が立ち現われ、それに触れ合い、新たなつながりを生み出す力があります。本企画では、森田かずよ氏と伊藤亜紗氏をお迎えし、ダンスカンパニー Mi-Mi-Bi の実践や映像作品を手がかりに、「身体でひらく」「身体でつながる」「身体でうみだす」 ことの可能性を多角的に考えます。それぞれの視点から、身体の感覚がどのように対話を生み、包摂的な関係を築くのかを探ります。さらに、パネルディスカッションを通じて、「身体的対話」がもたらす新たな関係性の可能性を議論し、参加者の皆様と共有する試みを行います。

 プログラム

日時:2025年7月5日(土)14:00-18:00

会場:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)・3階・303大会議室

参加:無料・事前登録

開催形式:字幕・音声ガイド付き映画上映、UDトーク使用

 14:00~14:20 趣旨説明(床呂郁哉、田中みわ子)

14:20~15:30 映画上映「旅する身体 ダンスカンパニーMi-Mi-Bi」(字幕・音声ガイド付き上映)

15:30~15:45 休憩

15:45~16:15 森田かずよ「Mi-Mi-Biの実践にみる身体感覚をめぐる対話」

16:15~16:45 伊藤亜紗「身体的対話がひらく多様性と包摂性」

16:45~17:00 休憩

17:00~17:30 パネルディスカッション

(登壇:森田かずよ・伊藤亜紗、進行:田中みわ子)

17:30~18:00 質疑応答

 企画・共催

日本学術振興会・受託研究課題「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」(学術知共創)、AA研基幹研究人類学「社会性の人類学的探求:トランスカルチャー状況と寛容/不寛容の機序」