JSPS学術知共創プログラム(2023-2028年度)

身体性を通じた社会的分断の
超克と多様性の実現

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JSPS学術知共創プログラム「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」2025年度年次研究集会

JSPS学術知共創プログラム「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」2025年度年次研究集会を、下記のように本課題の分担者・参加者による進捗報告と今後の研究計画の打合せを実施した。

 

後半は異分野融合型若手育成セミナーを実施して大村優介氏(東京外国語大学AA研研究員、本課題の研究員)と田井みのり氏(東京外国語大学AA研研究員)の研究と論文執筆構想に関する発表と討議を実施した。

 

日時:2026/2/15(日)13:30-19:00

場所:東京外国語大学AA研306号室

内容:13:30-17:30 分担者・参画者による進捗報告&討議

17:30-19:00 異分野融合型若手育成セミナー

 

内容の詳細は以下の通り。

分担者・参画者による進捗報告&討議

13:30- 課題のこれまでの活動概要、今後の方向性についての議論

研究代表者の床呂郁哉(以下、敬称略)より2025年度の活動の概要報告及び2026年度に向けての方向性についての提案がなされ、各参加者とともに議論を行った。

特に中間評価でうけたコメントをもとに共通枠組みの構築、社会的分断の成果還元の二点について集中的な討議をしたいという床呂から提案がなされ、「共視」など、参加者で共有可能な概念について討議が行われた。

具体的には下記のような内容を議論した。

・「共視」概念を軸に据えた社会的分断の超克方法が検討可能ではないか。

・「他者についての見方を変える」方法ではなく「他者と世界を共に見る」という超克方法があるのではないか。

 

さらに上記議論を踏まえ、次年度の計画・検討事項についても、学問的な議論をベースとしながら社会的分断を超克するための指針をいかに提示することができるか、それを学術論文以外の開かれた場でどう伝えていくのかが問われているという前提のもと、複数クラスターを超えたイベントを開催する必要性について提案がなされた。

 

14:15- 各参加者分担者・参画者による2025年度進捗報告と討議2026年度方針について

※当日参加者から報告された次年度方針に関わる内容については、未発表の研究計画の内容を含むため、公開可能な一部内容のみ掲載しています。

 

村津蘭(クラスターA:東京外国語大学AA研)

実施報告:

2025年2月に実施された展示・ワークショップ「影の分際」(新宿眼科画廊)について報告がなされた。「共視」としての映像と展示という観点を念頭に、調査地の人に霊と出会った経験をもとに霊の視点から映像を撮ってもらうという試みに基づくこと、さらにスクリーンの裏に心霊写真を貼るなどし、観客が霊という「他者」に映像や展示でアクセスする仕掛けが試みられたことが説明された。また、2025年3月に実施された映像・展示に関わるワークショップについても紹介され、個々の研究成果を身体感覚的によびかける形で展示することを試み、「市民」に開くアプローチを模索した内容であったことが報告された。

 

河野哲也(クラスターC:立教大学文学部)

実施報告:

①沖縄出張報告(2025/6/28-7/1)

・「平和」てつがくカフェ@南風原町立中央公民会館ふぁ

・ファシリテーター養成講座@琉球新報

・「読書」てつがくカフェ@県立図書館

・もえぴてつがくカフェ

・子ども哲学@開邦中学校、南風原小学校

・首里高校PTA哲学対話

②第3回 気仙沼プログレス(2026/2/7)

・満福寺「お寺で歩く、ひらく、てつがく対話」

・リアス・アーク美術館「芸術?・美術?・アート?よくわかんないから、みんなで話そ!」

 

小手川正二郎(クラスターC:國學院大学文学部哲学科)

実施報告:

自身が登壇・参加したシンポジウム等の経験や哲学的議論を参照しつつ、「共視」、「他者と共にみる」、「共鳴」、「反照」など本課題の共通枠組みに関わる概念について報告があり、参加者との質疑応答も含めて今後の方向性につながる議論が行われた。

 

今後の方針:

「他者と共にみる」という身体的実践はどのような可能性をもつのかについて、主に下記三点について報告と提案が行われた。

①課題の共通分析枠組みの案:「他者と共に世界をみる」こと、身体的実践を変えることで、認識を変えることの可能性を探っていく。

②国内の難民支援団体(難民支援協会:https://www.refugee.or.jp/)とのイベント

③2026/3/6にワークショップ「ファミニズム・現象学・エロス」を開催予定。

 

山口真美(クラスターB:中央大学文学部)

実施報告:

赤ちゃんと子どもの研究、顔・身体に関する一般向けの書籍出版、インタビューなどの活動を実施。詳細は以下の通り。

①2026/1「セックスとジェンダーを考慮した研究開発・イノベーションの推進―ジェンダード・イノベーションの実現に向けて」:生命科学の分野におけるジェンダーに書か課題が指摘された。

②タイ、チェンマイでのワークショップ:瞑想についてのディスカッションを実施。AIには瞑想ができるのか等の議論を行った。

③日本科学未来館での活動:子どもから見る不思議世界探究プロジェクト(23-29年度)。赤ちゃんから出発して、多様性の未来の理解と受容を目指すことを目的としている。子ども向けの実証実験、市民対話(科学的知見を踏まえた上での子どもたちとの対話。分担者河野ともコラボ)、国際共同研究、おもちゃや絵本の開発を行い、科学コミュニケーターと連携しながら、社会への発信を行っている(例えばアンドロイドの顔を作る研究を子どもたちに体験してもらうなど)。

 

高橋康介(クラスターA:立命館大学総合心理学部)

実施報告:

心理学において限られた対象の人々を前提としてきたことの問題(WEIRD問題)が近年指摘されていることを背景としつつ、調査者と調査地の人々の両者が共に研究にアクセス・関与し行うことを目指す必要性が指摘された。その上で、高橋の実施してきたナイロビでの実験心理学の実践や、近年高橋が実施している身体像(ボディーイメージ)研究、メンタルホムンクルスプロジェクトなどについて報告がなされた。特に人間を描画してもらう実験などの事例を基に、「心理学的非人間化(dehumanization)」との関連、ネットメディアの全世界的普及の影響などについて指摘がなされた。

 

今後の方針:

上記実施報告の内容を元に「社会的分断の超克」という目標にどのように貢献できるか、という点について参加者も含めて検討がなされた。特に心理的身体像を描出していくことの重要性、身体の匿名化・脱人間化と差別・排外主義との関係、ステレオタイプとなる身体像・身体観の違いと分断との関係、アフリカの地域的固有性など、今後本課題が取り上げるテーマについて議論が行われた。

 

工藤和俊(クラスターB:東京大学大学院総合文化研究科)

実施報告:

身体性を介した人々の協働と対立についての研究に関して報告がなされた。例えばスポーツ界におけるメンタルヘルス、対人間の相互作用に関わる変数の探索、認知バイアス、コミュニケーション認知、音楽と人間同士の関係性などのトピックに関わる研究実績について紹介された。また、セミナー・シンポジウム、スポーツ・体育・アートを利用した具体的実践手法の開発(多様な身体と「ともにある」ことから共同行為の可能性を見つけるボディーワーク)、アスリート自身が講師となって実施するメンタルヘルスに関するセッション、共生のための演劇ワークショップなどの実践例についても報告がなされた。

 

今後の方針:

アートによる社会的分断の超克の可能性を感じており、研究・ワークショップの実施を模索している。参加者との質疑応答の中では障害に関わるインクルージョン教育との関わり、「分断の超克」の中身に関わる議論が行われた。

 

山本芳美(研究参画者:都留文科大学文学部比較文化学科)

実施報告:

毛利清二氏に関わる研究について、2023年~2024年に行われたインタビュー、2024年に実施されたおもちゃ映画ミュージアム(京都)での展示、関連イベント、2025年の『刺青絵師毛利清二』の出版についての報告がなされ、そして同書出版後の反響についても紹介された。さらに「社会的分断の超克と多様性の実現」との関連で、日本映画界における毛利氏の位置づけや、展示・イベントが来場者にもたらした意義や社会的貢献についても説明がなされた。さらに第2回タトゥー文化研究会 の実施についても報告が行われた。

 

田中みわ子(クラスターC:東日本国際大学健康福祉学部)

実施報告:

2025年7月実施の「多様性と包括性をめぐる身体的対話」(映画上映+シンポジウム)や2025年12月実施の第3回公開シンポジウムでの発表内容を紹介しつつ、芸術実践の中でのケア関係、表現のアクセシビリティ、多様なレイヤーで作品と出会う、身体全体で作品を感受することの重要性などについて理論的知見が提示された。さらに2025年12月に実施した仙台市のパフォーミングアーツの実践についての調査(さぐる・おどる企画「聴覚障害のある人のパフォーミングアーツ活動活性化事業」)についても報告が行われた。

 

伊藤亜紗(研究参画者:東京工業大学科学技術創成研究院)

実施報告:

2025年7月実施の「多様性と包括性をめぐる身体的対話」での発表内容や、2026年1月実施の「どもるデザイン」(コーナー・フォラン氏による講演・ワークショップ)の実施報告が行われた。特に「どもるデザイン」の講師であるフォラン氏の実践や、講演・ワークショップの内容、そしてそこからもたらされた知見について紹介された。さらに本課題の「社会的分断の超克(と多様性の実現)」というテーマと同イベントとの関連性について、主観的経験の価値を見出すこと、メディアを変えることの意義・効果、障害学・クィア研究との接続、多様な経験を持つ参加者の間での「共鳴」の可能性、障害の社会モデルとの関係の取り方などについて報告者が得た知見が共有された。

 

その他、年次集会に参加がかなわなかった研究分担者・参画者からも報告書が提出され、年次集会出席者に共有された。

 

吉田ゆか子(クラスターA:東京外国語大学AA研)

「演じる事」「模倣すること」を軸に、そうした身体実践が、社会的な分断の超克にどのような可能性を持っているのかについて、バリ芸能を事例に検討している。2025年度は前年度に続き、①演劇を用いた民族誌の「再現」によって、異文化理解や他者理解を導くプログラムの実践とブラッシュアップおよび人類学的考察、②バリ芸能における、動物の模倣表現とその効果に着目した人類学的研究を行った。

 

渡邊克巳(クラスターB:早稲田大学理工学術院)

2025年度には、主に①アンドロイドの身体性に関するドキュメンタリー映像作成と②ペットロボットの葬儀に関するドキュメンタリー映像作成を進めた。①に関しては、前年度までのアンドロイド Sophia との対話を通した理解と分析に向けた活動のコンテンツの作成を進めた。②に関しては、令和8年度以降に行う予定であった、ペットロボット(AIBO)の合同葬儀に関する映像作成を前倒しで進め、ロボットと人の関係性や、死あるいは死の受容、献体などの概念について、映像作成を通じて、認知科学的観点からの分析とアートの実践の共創の可能性を探る議論を行った。

 

鳴海拓志(研究参画者:東京大学大学院情報理工学系研究科)

2025年度の研究では、視覚障害に関わる社会的分断を超克し多様性ある社会を実現するために,視力混合職場において当事者が直面する課題、非言語的手がかりの役割、および信頼関係構築の要因を明らかにするインタビュー調査を実施し、得られた知見を踏まえて視力混合職場のコミュニケーションを補助する身体化エージェント(物理的実体を持つ知能システム)を設計し、その基礎評価を実施した.

 

丹羽朋子(研究参画者:国際ファッション専門職大学国際ファッション学部)

以下の活動を実施した。①展示「災禍の体験を語るということ —コロナ禍と東日本大震災」(せんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」主催《星空と路 2025》展)の共同企画・制作(2025年3月11日〜4月20日、会場:せんだいメディアテーク(宮城県仙台市) )、②(学会発表)丹羽朋子「災禍の記憶を分有する⟨私⟩——東⽇本⼤震災とコロナ禍の間で」(日本文化人類学会第59回研究大会、筑波大学、2025年6月7日)、③記録プロジェクト「他者のコロナ禍を聞き書きする」の企画・運営(せんだいメディアテーク「地域文化アーカイブ事業」と連携して実施。2025年5-6月)

 

森田かずよ(研究参画者:NPO法人「ピースポット・ワンフォー」)

所属するダンスカンパニーMi-Mi-Bi(みみび)において、2025年秋から冬にかけて、下記3つの国際コラボレーション公演を実施した。

 

①2025年9月:Stopgap Dance Company〔ストップギャップダンスカンパニー〕とのダブルビル公演。Stopgap Dance Companyはイギリスにおいてインクルーシブダンスの先駆けでもあるダンスカンパニー。

上演レポート

https://db-dancebox.org/event/8041/

②2025年11月:台湾のResident Island Dance Theatre〔レジデント アイランド ダンス シアター〕(以下、RIDT)とのコラボレーション公演。RIDTは視覚障害がある張忠安が2010年に設立したダンスカンパニー。

 

上演レポート

https://diversity.db-dancebox.org/5021/

https://www.ridttaiwan.com/副本-2025-小藍的天空-偏鄉巡演計畫

 

③2025年12月:Trust Dance Theatre〔トラスト ダンス シアター〕韓国・ソウルを拠点に活動するダンスカンパニーとの公演。

 

上演レポート

https://diversity.db-dancebox.org/5057/

これら3つの挑戦は、単なる芸術的な交流にとどまらず、異なる文化や障害の有無を「差異」として切り分けるのではなく、舞台という想像力の空間においてそれらを混ざり合わせることで、社会的分断を物理的・精神的に超克していく実験でもあった。「ここは私の場所」という言葉が象徴するように、多様な身体が交差する瞬間こそが、分断された日常を繋ぎ直す一助になると確信している。